海外のお勧め本

私は年間百冊を目指して本を読んできています。
なので読んでいる本の数も膨大になってしまう。その中で特によかったものだけをあげるので参考にしてください。
もちろん、全体からいえば、ごくごく一部だけの紹介です。ここ数年は記録をとっていなかったので、今回あげるものは少々古いかもしれません。
折を見て追加するつもりですが、ジャンルは非限定なのでそのつもりで。
既に絶版となったり、入手困難なものは、古本屋か図書館で探してみてください。

「死の接吻」                アイラ・レヴィン
★★★★★★


アイラ・レヴィン24歳の処女作。物語は3部構成で、第1部は完全なスリラー。
学生である主人公は、妊娠した女を殺そうとする。殺人を一つの手段としてしか考えない彼は、何の躊躇もなく、自殺に見せかけて殺してしまう。
途中で、読者は予想を裏切られ、物語に引き込まれていくことになるでしょう。
第2部はサスペンスになっている。この段階になって、第一部では、主人公であった男が、まだ名前をあかされていない事に気づく。
かくして、被害者の姉は、犯人を暴こうと調査を始めるが、誰が犯人なのか分からないまま、話は進み、分かったときには、もう遅かった……。
第3部は三姉妹のうち二人までも殺されてしまったが、一人生き残った長女は、またしても彼の餌食に……。非常によくできた作品で、専門家たちの評判も良い。このジャンルでは、間違いなく最高傑作のひとつ。いくつか映画になった。

「ゴットファーザー」(上下)        マリオ・プーヅォ
★★★★★


ジャンル分けに困る作品だが、シリアスドラマだろうか?
ニューヨークで最も巨大なマフィアであるコルレオーネ・ファミリーとその家族達のドラマを描く。
マフィアに対してのイメージが変わるだろう。ドンのヴィトー・コルレオーネの3人の息子達。癇癪持ちの長男、図体だけデカい次男、聡明な末っ子のマイケル。
結局、マイケルが父の後を継いでファミリーを牛耳るわけだが、それまでのちょうど10年間のストーリーが描かれている。非常にマフィアを研究し尽くしており、飽きさせずに最後まで読ませる。映画にもなった。

「生存者 アンデスの70日」        ピアーズ・ポール・リード
★★★★★


映画「生きてこそ」にもなった、衝撃のドキュメント。極寒のアンデスに墜落した生存者達の10週間にわたる生きる戦いが描かれている。
読者は間違いなく、生き残るために人肉を食う彼らに衝撃を受けることだろう。

「アクロイド殺し」             アガサ・クリスティ
★★★★★


誰でも知っているミステリー作家アガサ・クリスティ、彼女の作品の中で最高傑作のひとつ。
犯人の隠し方は巧みで、実際、最後まで絶対に犯人は分からない。犯人を割り出そうと、懸命に読んでもおそらく分からないであろう。そのへんがフェア、アンフェア議論を巻き起こした所以だが……。
少々、殺人のあった日の関係者の行動が複雑で不自然すぎる。その日に限って、なぜそんなに……と思う。
かの有名なエルキュール・ポアロもの。アガサ賞なるものが存在する。非常にファンも多く、人気のある作家。

「そして誰もいなくなった」         アガサ・クリスティ
★★★★★


彼女の作品の中で最高傑作。主人公なしの異色ミステリー。ある島の邸宅に10人の人間が集まった。過去に殺人を犯し、裁かれずにいる人々。そして、10人のインディアンがひとりずつ減っていく童話に模して、ひとりずつ彼らも殺されていく。
結局、犯人も分からないままラストに直行する。いくどとなく映画化されている。

「宇宙のランデヴー」            アーサー・C・クラーク
★★★★


意外な結末で終わるSF。物語全体が意外の固まりともいえる。
臨場感あふれるストーリーと人物描写はSFならでは。続、続続編あり。ヒューゴー賞、ネビュラ賞、受賞。

「笑う警官」                マイ・シューバル、ペール・ヴァールー
★★★★


時期的には「唾棄すべき男」よりも前の作品。雨の夜、ストックホルムで起こった、二階建てバスの銃無差別乱射事件を扱っている。
9人の乗客はことごとく殺され、その中に主人公マルティン・ベックの部下が居たことに端を発し、彼が生前扱っていた事件を洗っていく。
前半は手がかりもなく、捜査がなかなか進展せず、つまらなく感じるが、全体の流れはよい。アメリカ私立探偵作家クラブ最優秀長編賞、受賞。映画「マシンガン・パニック」

「赤い収穫」                ダシール・ハメット
★★★★★


非常に読みやすく、面白い。無法者の割拠する町を浄化する主人公(探偵)の話。
文章に無駄がなく、スピーディな展開は、読者をぐいぐいひっぱってはなさない。探偵小説の中でも、はしりの作品で非常にハードボイルドっぽい作品。

「影なき男」                ダシール・ハメット
★★★★


彼の作品は、本人が指摘するように会話が巧みである。厳密には、ハードボイルドのジャンルには入りきらない作品だが、彼の一連の探偵小説の最後の作品となった。
内容的にはかなりミステリーよりである。主人公は元探偵で、個性はあまりない。本作品には、ヒステリックで自分勝手な女性が登場するが「赤き収穫」にも、良く似た人物が登場する。
こういった女性像からもハメットの女性に対する見方がうかがえる。途中、本編とは関係ない人食いの記述があり(実話?)、この物語も面白い。映画化されている。

「マルタの鷹」               ダシール・ハメット
★★★★★


ハードボイルドの古典的名作であり、教科書的存在。彼のほかの作品よりも、ハードボイルド色が強いが、チャンドラー達とは、また違った魅力がある。
主人公サミュエル・スペード。かなり個性の強い主人公で、話の構成が、いかにもアメリカ的で面白い。映画化された。

「ガラスの鍵」               ダシール・ハメット
★★★★


主人公ネド・ボーモンは探偵ではなくて賭博士だが、かなりハードボイルドっぽい作品。
やっぱり、ボコボコにされる。題名は、夢の中に出てくるものからついている。

「さらば愛しき女よ」            レイモンド・チャンドラー
★★★★★


訳者が違うせいか、非常に読みやすい。フィリップ・マーロウを主人公とする長編第2段。ただ、自分の事を「僕」と言っているあたりは「オレ」にして欲しかった。冒頭で殺人事件に巻き込まれたマーロウは、別の仕事の依頼を受け、ボコボコにされてしまう。
全く別物だと思ってたふたつの事件の関連が、最終的に解き明かされる。主人公は、他の小説にあるような、強力な個性を持っていない。通常はしゃべり方に特徴があったり、へんな癖があったりして、登場人物を印象付けるのだが、彼は何の特徴もない。
しかし、文章が一人称形式、つまり自分が書いたような文になっているため、読者は小説中、ずっと彼と一緒にいる事になる。そういった中で、彼の動作、言動などが彼の特徴を多方面から読者に伝える結果となる。結果的に、現実味の薄い他小説の主人公に比べ、非常に人間的で、現実味のある主人公が描かれている。映画化された。

「高い窓」                 レイモンド・チャンドラー
★★★★


フィリップ・マーロウを主人公とする長編第3段。いくつもの事件が絡み合い、最終的に決着する、お決まりの展開だ。マーロウが次々と殺人事件に出くわすのは不自然であるが、ちゃんと結末につながっている。
殺人事件に巻き込まれては、毎回違う刑事と接する事になる。本人も、警察とは(ある程度は)仲良くやりたいと考えており、結果的にうまく行っているようだ。マーロウは、どの刑事にも一目置かれているのだ。

「長いお別れ」               レイモンド・チャンドラー
★★★★★


フィリップ・マーロウとテリー・レノックスの男の友情が光る作品。
個人的には彼の作品の中では最高傑作だと思う。アメリカ私立探偵作家クラブ賞受賞。

「燃える男」                J・A・クィネル
★★★★★


傭兵だった主人公は、少女のボディーガードを請け負った。単なる保険対策だったはずの仕事が、思わぬ方向に。彼の乾いた心に安らぎを与えた少女は、誘拐され殺されてしまう。怒りに燃えたクリーシィは、事件の関係者を残らず抹殺する。
クィネルは謎の多い男で、今のところ本人が誰なのかは知られていない。この手のジャンルには珍しく、読みやすく面白い。

「パーフェクト・キル」           J・A・クィネル
★★★★


前作「燃える男」で、死んでいなかったクリーシィは、しばしの安息の後、妻と娘を飛行機のテロで失う。再び、復讐に立ち上がる彼だが、今度は少年マイケルを養子に迎え、鍛え上げる。
クリーシィ・シリーズ第2弾。

「ブルーリング」              J・A・クィネル
★★★★


クリーシィは、今度は養女を迎える。そして、マイケルと共に人身売買組織とその裏に潜むカルト集団を壊滅させる。クリーシィ・シリーズ3弾。

「ブラックホーン」             J・A・クィネル
★★★★


今度は、養子マイケルを失う。香港マフィアが敵である。クリーシィ・シリーズ第4弾。

「地獄からのメッセージ」          J・A・クィネル
★★★★


かつての戦地であるベトナムに行方不明の米国兵士を捜しにクリーシィは向かうが、そこには巧妙に罠が仕掛けられていた。クリーシィ・シリーズ第5弾。

「バチカンからの暗殺者」          J・A・クィネル
★★★★★


クィネル特有の暖かくなる人間関係も、しっかりと組み込まれている。話自体は出来過ぎているが、時間を忘れて読める作品。

「戦争の犬たち」(上下)          フレデリック・フォーサイス
★★★★


傭兵達が大企業の依頼を受け、アフリカの小国にクーデターを起こす。それまでの経緯が物語となっていて、作戦自体の記述部分は少ない。
準備の部分は、非常に長ったらしくて複雑であるが、武器の密輸やヨーロッパ各国での取引は参考になる。フォーサイス自身がかつて企てた作戦をモチーフにしているとの話もあるが、これは眉唾物だろう。

「アイスバウンド」             ディーン・R・クーンツ
★★★★★


サスペンス色の強い、アドベンチャーで、厳密なジャンル分けは難しい。かつてクーンツが、デビッド・アクストンの名で出版した「氷の牢獄」を改稿したもの。
北極圏で氷山を爆薬によって切り出し、水の不足する地域に、漂流によって届ける実験を行っている科学者達。予定通り、爆薬のセットが終わったころ、大規模な地殻変動により、爆薬と科学者を乗せた氷山が漂流を始める。
12時間後に爆発が起きれば氷山は砕け、残った部分も回転し、向きを変える。絶体絶命の中、更なる危機が彼らに襲いかかる。よく計算し尽くされた作品で、12時間というかぎられた時間の物語の中、絶妙なタイミングでイベントが起こる。同系列のジャンルは彼もこの作品のみ。職人気質の彼ならではの野心作。今では、S・キングに並ぶ、ホラー作家として有名。

「大列車強盗」               マイケル・クライトン
★★★★★★


舞台は19世紀半ばの英国。大金(1万2千ポンドの金塊)を運ぶ列車を襲う強盗達。実話をもとに細かいところは付け足して、計画から実行、裁判までを追った力作。
主人公ピアーズの、強奪に掛ける情熱と執念深さは、いつのまにか読者に感情移入させる。ひとつ問題をクリアすると、また一つ問題が浮上する。困難をひとつずつ乗り越えるその姿は、いつのまにか読者に成功を祈らせるようなる。善悪は抜きにして、一種のロマンを感じさせる作品。よく研究したと見えて、当時の生活がそこかしこで解説されている。

「ファイアースターター」(上下)      スティーヴン・キング
★★★★★


大学で行われた、政府機関の実験。危険はないと信じ、それに参加した二人の男女。実は、それは恐るべき実験で、十二人のうちのほとんどの被験者が、死ぬか廃人になってしまった。
しかし、彼らふたりは無事に切り抜き、その実験の結果、超能力を手に入れる事になる。二人は結婚し、子供が産まれると、その子が恐るべき能力を持っている事が発覚する。
彼ら親子に米政府機関「店」(CIAの下部組織?)の魔の手が伸びる。不本意にも、生まれながらに恐ろしい能力を持ってしまった少女チャーリー。そして、彼女とその家族に襲いかかる悲劇。
彼女の能力が所々、物語中に発揮されるわけだが、その能力がまた、すさまじい。その能力とは、念力放火。つまり、彼女はファイアースターターなのだ。
「呪われた町」同様の長編だが、文章が洗練され、退屈させない。彼の作品は、情景が頭の中に浮かびやすい特徴を持っている。外国の物語であっても、それを可能にするのは、彼の情景描写が巧みで、自然である証拠だろう。映画「炎の少女チャーリー」。

「ウォッチャーズ」(上下)         ディーン・R・クーンツ
★★★★★


人生に絶望した男と孤独な女、そして、実験によって生まれた、賢い犬「アインシュタイン」との出会い。しかし、実験によって生まれた動物は彼だけではなかった。
「アウトサイダー」ヒヒをベースに戦闘用に作り上げた生物兵器。驚くべき戦闘力を持った彼もまた、人間並みの知能を持つ。醜い姿の彼は、人間を憎み、何よりも人に愛される「アインシュタイン」を憎んでいた。犬が研究所を脱走すると、彼もまたその後を追った。
犬が人間並みの知能を持っていれば、なんて楽しいんだろうと思わせる作品。しかし、なぜ犬がそんなに賢いのか?と思っていると、政府のおぞましい実験がちらほら見え隠れしだす。
作品中に何回か、小説本とその著者の記述があるが、そこからクーンツの好きな作家がうかがい知れる。彼はチャンドラーが好きで、初版本を集めているが、作品中に「長いお別れ」が登場している。物語は長いが、飽きさせずに最後まで読ませる。

「ウィスパーズ」(上下)          ディーン・R・クーンツ
★★★★★


80年の作品。珍しい精神病の殺人者と、クーンツお得意の幼少期に虐待を受けた主人公。
時間を忘れて読みふけってしまうような作品。 

「ドラゴンティアーズ」(上下)       ディーン・R・クーンツ
★★★★


酒乱だった彼の父が他界した後に書かれた作品。彼の作品には、子供の頃に虐待を受けた人物が多数登場するが、本作品も例外ではない。今回の敵キャラは、なんと魔法使い(?)である。
しかも、ほとんど神と変わらないほどのバケモノ。作品中に「イヌ」の視点から書かれた部分がしばしば登場する。クーンツはよほど犬が好きなんですね?

「ブラジルから来た少年」          アイラ・レヴィン
★★★★


戦後30年、ナチスドイツの残兵達は、秘密の計画のため世界中に散らばった。2年半のうちに65歳の人間をある日の前後に合計94人殺すのだ。狙われた人間はいったいどんな人物達なのか?
なぜ、殺さなければならないのか? 少しづつ謎が解明されながら、物語は進展する。ブラジルから来た少年(たち)の正体とは?「ローズマリーの赤ちゃん」同様、これからどうなっちゃうの? というところでラストを迎える。少年サンデーのマンガ「スプリガン」を始め、多くの作品に影響を与えている。

「ロウフィールド館の惨劇」         ルース・レンデル
★★★★


イギリスのごく普通の裕福な家庭、カヴァデイル家。彼らを襲った悲劇を描く。彼らが雇った召し使いは、父親殺しの、ゆすりの常習犯の中年女性、ユーニス・パーチマンだった。彼女は、字が読めず、それを隠して今まで生きてきた。
冒頭から一家が惨殺される事が分かっており、ユーニスが来た日から、その惨劇の日までを追う形で、物語は進行し、読者は成すすべもなく、その日に向かって読み進めるしかない。結末が分かっているため、その場面を期待してしまうが、それ自体はたいした事はなく、すぐに終わってしまう。
もっとおぞましい惨劇かと思ったが、ちょっと期待外れな感じがする。

「わらの女」                カトリーヌ・アルレー
★★★★


フランスの女流作家で、賞を取っている。ここでは、推理小説のタブーである、完全犯罪の成功が描かれている。とある百万長者の老人の秘書、そして財産を手に入れるためなら、何でもする女(被害者?)。
ふたりは、財産を手に入れるため、計画を練り、実行に移した。それは成功したかに見えたが、さらに恐ろしい計画の一部に過ぎなかった。
この物語には、ミステリー特有の、謎解き人がいない。そのために、完全犯罪が暴かれる事はないのだが。解説は犯人自ら行っている。少々、担当刑事の態度が不自然で、買収されてるのかと思うほど、かたくなに彼女を犯人扱いしている。

「コーマ -昏睡-」            ロビン・クック
★★★★


臓器の売買を行っている犯罪組織を医学生スーザンが暴く。人体を商品として扱うその感覚は、潜在的な寒気をもよおさせる。
最近、日本でも移植が盛んになり出したこともあり、知識を深める上でも一読を勧めたい。専門用語が多くてわかりにくいところもあるが、面白い。

「クロイドン発12時30分」          F・W・クロフツ
★★★★★


犯人が、如何にして犯行を行ったかが、詳しく述べられている。そのため、謎自体はないが、読者は物語に吸い込まれる。内容は、かなり典型的。
殺人、恐喝、殺人、逮捕となる。最初に犯行を、その後に犯行の過程を、フラッシュバック方式を使って描いているが、特に斬新さはないように思う。