NO001「原付自転車運転者考」

原付自転車をご存知だろうか。もちろん、知らない人は居ないだろう。いわゆる原チャリのことだ。街中を物凄いスピードで疾走する姿は滑稽で、なぜあんなに小さいのに速いのか? と疑問を持つ人も多いはずだ。十六歳で取れる運転免許なので高校生等の若者が乗り回す姿も多く見受けられる。携帯電話の普及で原チャリの持つ「おもちゃ度」は下がったかもしれないが、いつの時代でも若者はスピードに魅入られてしまうようで、原チャリ人気は、なくなりそうにない。
 ヘルメットの紐を顎にかけ、本体は後頭部にずり落ちている姿をよく見かける。改造して騒々しい音を立てている原チャリも多く、白煙を吐きながら走る者もいる。私はというと、駅と家の往復に愛用しているだけの、いたって健全な原チャリライダーである。
 十二年も真面目に原チャリを運転していると、面白いライダーに出会う。原チャリは七馬力強のパワーが最高水準で、弱いものは四馬力程度しかない。七馬力と四馬力では、そのスピード感に歴然とした差が出る。普通はドラムブレーキだが、高級品はパワーのせいでブレーキが利き難いのか、ディスクブレーキを装備するといった違いもある。
ここで面白いのが、その運転者達の意識の違いだ。馬力以上に歴然とした意識の差が発生する。グレード高く、足の速い原チャリを持つライダーは、停止線のちょっと前まで行く事はあっても、危険なほど信号内に進入したりしない。信号無視もしないし、信号が青になるまで見切り発進もしない。いたって良心的な者が多い。
 それに比べ、へろへろエンジンでパワーのない原チャリライダーは、赤でも平気で信号内に侵入する。停止線の遥か前方に位置してしまうのだ。しかも、彼等は信号が青になる前に発進してしまう。
 酷い人になると、例え信号が赤だったとしても意に返さない。脇の歩道に乗り上げて疾走し、何食わぬ顔で青側の道路に復帰。そのまま何食わぬ顔で走り去るのだ。明らかにチャリンコ感覚、彼等に交通法規は通用しない。
 歩道を逆送するなど当たり前。道路をマイペースで走り、後方に車の渋滞を作ってもへっちゃらだ。折角、普通乗用車がへろへろ原チャリを追い越したとしても、赤信号に捕まると、いつの間にか、するするっと原チャリが前方に押し出てしまう。苦労して追い越しする方こそ、いい面の皮だ。これで遅い原チャリが、老人の運転するよろよろ自転車並に非常に危険で邪魔な存在であることが、万人にも分かってもらえると思う。
 社会が豊かになり、原チャリもレベルアップを続けている。高性能のものがどんどん安く手に入るようになった。だが、不思議なことに低馬力の原チャリは市場から消えることはない。それに、その原チャリに乗るドライバーも消えることはないのだ。
 あの低馬力のエンジンには、社会の常識を吹き飛ばしてしまうような独特の催眠効果でもあるのだろうか? 私は奇妙な違和感にとらわれながら、あの「ブブブブ……」という弱々しいエンジン音を放つ低馬力原チャリを今も見つめている。
初稿 二〇〇四年九月吉日



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