通勤時の暇つぶしと古典芸能の復興のため(?)に聞いている落語と平行し、文学も聞いている。金を払うのもシャクなので、インターネットを介してタダで入手している。そうすると、どうしても古い作品ばかりになるし、また短編ばかりにもなる。つまり著作権の切れているものしかありえなくなるが、芥川、太宰の短編を中心にした作品が多数存在していて助かる。前から読みたかった中島敦の作品なんかもあって興味深い。
渡辺智明氏による「声で聞く名作本」というシリーズはちょっと読んで解説する、という変わったスタイルのもので、まるでラジオのようだ。これを聞いていると、思わずその本を読んでみたくなるから不思議だ。
そんななかで中篇である、夏目漱石の「坊ちゃん」を聞くことが出来たのは幸運であった。三十三本ものファイルに分割録音されており、数時間に及ぶ朗読は聞く方も疲れる。情報が欠如していたので、並べ替えて録音する必要があったが、タダなので文句の言いようもない。
昔、教科書にも載っていた有名な冒頭に始まり最後まで、つらつらと聞いてみると、どうも読んだ記憶がある。昔、読んだのだろうか。内容的にはたいした話ではないのだが、エンターテイメント小説として、少しも古さを感じさせない出来だった。ジェームズ・M・ケインのように、人間の本質を捉えてる作品だと思う。
「夢十夜」という漱石の短編集的な作品もあり、楽しく聞くことが出来た。黒澤明監督の「夢」を思い出すような内容だが、順番からいってこちらが元だ。漱石とはまことに見事な作家で、純文学というよりもエンターテイメント性が高い。千円札の顔というだけの存在ではない。漱石の本は「こころ」くらいしか読んだことはないが、これも時代を感じさせない良い作品だと思う。
お札の顔といえば樋口一世の「にごりえ」もダウンロードしたし、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」も入手した。どうしても本を買ってまで読む気にはなれないこれらの作品も、まさに温故知新。朗読で聞いてみるのも一興だ。
ボランティアというか、趣味で朗読を行っている人は凄いなあ、と思う。多少間違ったりする部分もあるが、あれだけの量を一気に読み上げるのであるから、相当に苦労するだろう。静かな部屋でモクモクと読んでいるのだろうし、失敗したら読み直すはずだろうから、時間も相当取られる。うまい人とそうでない人の差は激しい。聞き取りにくいものも少なくない。また、おやっと思うことがある。読みを間違えているところも存在するからだ。もっともっといっぱい朗読作品があればいいのに、と思うのだが、自分でも贅沢だと思う。
初稿 二〇〇八年三月二六日
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