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指導方針


《剣道の魅力について〜他のスポーツとの相違点〜》
 剣道を通じて「生きる力」を育むという目標のためには、何はともあれ、子どもたちに剣道を始めてもらう必要があります。そして、出来れば長く続けてもらいたいと思います。一度きりしかない人生ですが、そうたくさんのことに真剣に取り組めるものではありません。たくさんのスポーツや文化活動がある中で、剣道を選んでもらい、続けてもらうためには、剣道の魅力をしっかりと伝える必要があると考えています。
 剣道家はよく「剣道は他のスポーツとは違う」と言います。しかしながら、その理由はというと、「剣道は武道でありスポーツではない」等の非常に分かりにくい説明が多かったのも事実だと思います。
 私が考える剣道の最大の魅力は、(1)身体能力の差が剣道の上達スピードや実力差に必ずしも直結しないこと(運動神経の悪い子でも上達する)、(2)上達要件に占める経験知や精神的要素の割合が非常に高いこと(努力次第で上達する)、(3)従って、中高年になっても、加齢による体力の衰えを補ってあまりある技量の上達が望めること、の3点です。陸上や野球、サッカーなどは、走る、跳ぶ、投げるといった基本的な身体能力の差が、その競技能力の差に結びつく割合が非常に高く、従って、引退年齢も比較的早期に来ます。私の知る限り、剣道は、数ある競技の中でも、身体能力の差が競技能力の差に結びつく割合が最も低い部類に入ると思いますし、引退はありません。剣道家はみな生涯現役です。
 私はこれまで、所謂「運動神経」が相当悪いにもかかわらず、剣道が強い子をたくさん見てきました。剣道では、激しい動きの中で冷静に相手の気持ちを読み取り、知恵を絞って駆け引きし、打ちたい気持ちを我慢して機会を打つ、といった「経験知(経験の積み重ねにより身に付く能力)」や精神的要素の占める割合が、他の競技と比較して非常に高いのです。従って、努力して経験を積んだ分だけ上達に繋がる確率が高いということが言えると思います。いくら努力しても、あるところ以上は足が速くならないのと違って、剣道は稽古すればしただけ強くなります。何歳になっても強くなります。真剣な稽古を継続する覚悟さえあれば、誰でも、何歳からでも上達します。中高年の剣道愛好家が忙しい合間をぬって稽古に駆けつけ、先生に打たれても打たれても稽古に通い続けるのは、そういった側面があるからなのです。
 多くの剣道家が「剣道は他のスポーツとは違う」と考える理由も、このあたりではないかと思いますし、これこそが剣道の最大の魅力ではないかと思います。

《剣道を続けてもらうために〜剣道は楽しい!?〜》
 せっかく剣道を始めたのに、途中で辞めてしまう子どもたちがいます。その殆どが実は、稽古が厳しくて辞めるのではなく、なかなか上達しないために、つまらなくなって辞めてしまっているようです。塾通いや受験が理由で辞めるのも、実は稽古がつまらないからで、本当に楽しければ、どんなに忙しくても、一生懸命時間を作って稽古に来ます。(そして、そんな子ほど勉強もよく出来ます。)
 せっかく始めた剣道を長く続けてもらうには、やはり、普段の稽古の頑張りによって自分が上達していることが実感出来ることが必要だと考えています。道場がいくら和気あいあいと楽しくても、試合に出ると負けてばかりいては、そのうち、つまらなくて辞めてしまいかねません。子どもたちが一番「楽しい!」と感じるのは、昨日まで出来なかったことが出来るようになった時や、全く歯が立たなかった相手から一本取れた時、ずっと勝てなかった相手に勝てた時、等だと思います。子どもを上達させてあげるのは指導者の責務です。
 また、楽しいことがあふれ、簡単に手に入れられるこの時代にあっては、残念ながら、昔のように、切り返しと掛かり稽古といった基本稽古だけで子どもを鍛え上げるというのは、難しくなってきています。いくら大切と言われても、単調な稽古だけでは、子どもたちはすぐに興味を失くしてしまうのが現実ですし、子どもをやる気にさせてあげることはなかなか難しいと考えています。
 指導者は、日々しっかりと一人一人の子どもをを観察した上で、適切な課題を設定し、それをクリアするために効果的な稽古法を徹底的に考え抜いた上で、飽きの来ないアイデア一杯の稽古メニューの中にそれらを織り込みながら頑張らせてあげることが重要だと考えています。

《剣道上達のために@〜指導体制〜》
 子どもが上達するために望ましい指導体制に関する私の考えを述べたいと思います。私は、子どもたちのためには、負担は大きくなりますが、極力一人の指導者が責任をもってある期間一貫して子どもたちを指導するのが望ましいと考えています。普段の稽古は無論、試合や遠征も、指導者が極力欠かさず帯同した上で、子どもたちをしっかりと観察して弱点や補強ポイントを明確に把握し、そこを改善するための稽古法を研究しながら指導することが重要だと考えています。試合や遠征は、子どもたちにとって学びの機会であると同様、指導者にとっても、自身の普段の指導内容や指導方法を検証する最良の機会です。
 一人の指導者が指導する体制というのは、剣道では必ずしも一般的ではありません。剣道は、指導者と教え子が一対一で向かい合って行う指導稽古が非常に重要であり、一人の指導者できっちりと指導できる人数にはどうしても限度があるという側面があるからです。従って、高段者が複数いる場合は、全員が元に立って思い思いに指導するというのが比較的一般的な指導法です。しかしながら、仮に、たくさんいる指導者たちが、その場その場で子どもたちの欠点を気付いたままに指摘するとどうなるでしょうか。子どもたちは、一日の稽古でたくさんの先生から様々な指摘を受ける羽目になり、真面目な子ほど何が何だか分からなくなってしまう恐れがあるのではないかと思います。教わる方が大人であれば、自分なりの選別眼で自分に合った師匠を見つけ出し、その先生から継続的指導を仰ぎつつ、他の先生から受けたアドバイスも適宜自分なりに咀嚼するということが可能なのですが、子どもにそれを期待するのは難しいと考えています。従って、指導責任者が全体の指導をリードし、その上で、時々の重点指導事項や個々人に対する指導ポイントを指導者間で共有するという作業が必要だと思います。
 それだけに、指導責任者の責任は重大です。剣連の合同稽古会や様々な講習会に積極的に参加するなどして、常に謙虚な気持ちで、自らの剣道と指導法を絶え間なく検証することが必要だと思います。
 また、責任をもって子どもを指導する上で最も大切なことは、その場の「指摘」ではなく、継続的「観察」ではないかと思っています。日々の稽古や試合をしっかりと観察し、その上で、見つけ出した欠点をその場ですぐに指摘するのではなく、その内の1つか2つだけを修正するだけで大方の欠点が直ってしまう、そんな「欠点の親玉」を見つけ出すまで我慢し、そこを毎日の稽古で繰り返し繰り返し徹底して指導するのが効果的だと考えています。

《剣道上達のためにA〜褒めて伸ばす?厳しく指導?〜》
 次に、指導スタンスに関する、今の考えを述べたいと思います。
 子どもを指導する際に、ほめて伸ばすか、厳しく指導して伸ばすかという問題は、難しい問題です。少子化時代の今、昔に比べて子どもたちは、大人からかまってもらったり、ほめてもらったりすることに慣れています。従って、基本スタンスとしては、ほめながら指導する方が、子どもたちとの関係が良好に維持しやすいのは事実でしょう。しかしながら一方で、いつもほめて引き立ててばかりでは、大人にのせてもらわないとやる気が出ない、ほめられないとその気にならない、内発的な動機に欠ける(自分からやる気の起きにくい)弱い子に育ってしまうのではないかとも、体験的に感じています。
 反対に、自分のためと頭で分かってはいても、いつもガミガミと怒られたり、きつく叱られてばかりでは、稽古に行くこと自体がいやになってしまう可能性もあります。
 今の私が心掛けていることは、やたらとほめるのでもなく、いつも怖い顔でいるわけでもなく、普段の稽古における場の空気を、「祭り」や「ライブ」のように盛り上げることです。そんな場の雰囲気の中で、いつの間にかみんな真剣に、それぞれが120%の力を出している、そういう場の空気を作り出すことです。その上で、課題が出来なければ何度でも繰り返しやらせる。一切の妥協なく、出来るまで、何度でもやらせます。場の空気がポジティブでさえあれば、とりたててほめる必要も、叱る必要もなく、子どもたちは真剣に稽古に取り組んでくれますし、かなり厳しい稽古でもサラリとこなします。経験の浅い子は、上手な子のペースに必死についていく間に自然と出来るようになっていきますし、子どもたちに「やらされ感」もありません。そんな中で、自分の課題をしっかり認識し、何度も何度も繰り返し稽古してやっと出来た時の喜びはまたひとしおです。その喜びがまた子どもをやる気にさせてくれるんだと思います。
 また、これまでの指導者としての経験の中で、あらためて気付かされたことがあります。考えてみれば当たり前のことなのですが、どんな子どもにもプライドがあるということです。どんなに人の話を聞くのが苦手な子でも、どんなにさぼりぐせのある子でも、みんなと同じだけプライドはあるということです。だから、子どもたちは、自分のことを認めてくれない指導者に本気でついていくことはありません。逆に、自分の存在を認めてくれる指導者には、多少の好き嫌いはあっても、基本的にはついていきます。その基本を外さなければ、子どもたちを厳しく叱る必要も、おだててほめてその気にさせる必要もないと思います。
 子どもたちと接する上で一番大切なことは、褒めるのでもなく、叱るのでもなく、一人一人を「リスペクト」することだと考えています。

《剣道上達のためにB〜対外試合の意義〜》
 最後に、試合、遠征の意義についての考えを述べたいと思います。費用はかかりますが、対外試合や遠征には可能な限り参加したいと考えています。積極的に対外試合に参加することで、自らの課題を認識することが出来、一生懸命頑張っている他道場の剣友の意識の高さやテンションに触れることで、更なる向上へのモチベーションが得られると考えるためです。自分たちがいくら頑張っていると思っていても、上には上がいるものです。そんな同世代の子どもたちを見て、実際に立ち会って、時に友達になることが出来れば、大変な励みになります。
 私は、出る以上は試合は勝つことを目指すべきだ考えています。普段の稽古も、やはり相手から有効打突を奪うことを目指して行うものだと考えています。試合に勝つことが全てだとは全く考えていませんが、相手から見事な一本をとることを目指して真剣に稽古し、日々研究する、それが「剣の理法の修錬」であり、その先の「人間形成」に繋がるのではないかと考えています。試合で負けて己の未熟さを知り、勝って努力の成果を感じてまた次の目標に向かって頑張る、そういったことは、純粋に、成長期の子どもには必要なことと考えています。