会社で働いている電卓の電太くんは、引き出しの中にいることが多い。
ご主人さまはOLさん。

引き出しを開けたときに差し込む、蛍光灯の光がまぶしい。
そのたびに期待してしまう電太くん。
(おっ、ぼくの出番かな?)
けれど大抵、定規くんやカッターくんがお仕事に行く。
何日も仕事がなくて引き出しの中から出られないこともある。
たまのお仕事で、机の上から辺りを見回すとみんな忙しそうに働いている。
それを見てうらやましいなぁと思ってしまう。

引き出しが開いて、やっと来た活躍の日?
「ヨーシ。久しぶりのお仕事だ」
張り切って引き出しから出たものの、机の上はすっかり片付いていて、電太くんもなぜかそのまま、紙袋に入れられてしまった。
がっかりする電太くんの耳に、ご主人さまの声が聞こえる。
周りの人たちに挨拶をしていた。
(何の話だろう?)
耳を澄まして聞くと、みんなの祝福の声。
(結婚?知らなかったな〜)
「ご主人さま、おめでとうございま〜す」
紙袋の中から、声を上げる電太くん。

(アレッ、ぼくはどうなるんだろ・・?)
以前のことを思い出すと、不安になってくる電太くん。
(備品置き場には、帰りたくないよ〜)

ご主人さまのお友達のU子さんが来た。
「ねえ、電卓を取り替えてくれない?」
「どうしたの?」
「調子が悪いんだけど、今夜も忙しいのよね。交換手続きすると時間掛かるでしょ」
ご主人さまは「はいヨ」と、電太くんを手渡して代わりに、U子さんの電卓を仕舞った。
「ありがとね〜」

新しい職場で、新しいご主人さま?
(どんなところだろう?不安だな〜)
着いたそこには、電卓仲間がいっぱいいた。
みんな忙しそうに働いている。
「早くしないと、今日も遅くなる〜」
新しいご主人さまの慌てた声で、電太くんもなんだか焦ってくる。
職場は“経理部”というところだそうだ。

翌日からは、今までの生活とは一変。
「よーし、今日も忙しいぞ!」
ご主人さまと電太くんは、声を合わせる。

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