激安コーナーにひとつ残っている灰皿。
「空き缶やめて、灰皿でも買うか」
手に取りレジへ向かう。
ご主人様になる人を見上げる灰皿くん。

次の日の朝からは、ご主人さまと一緒に目覚める灰皿くん。
まず、ご主人さまは朝の一服。
ギュッ!とタバコを押し付けられる灰皿くん。
「んしょ」
懸命に下から支えるが、
「ケホ・・ケホッ・・・」
たばこの煙にむせてぐらつく灰皿くん。
「なんだ?不安定な灰皿だなぁ〜」
寝起きの悪いご主人さまはイライラ。

「向いていないのかなぁ〜」
自己嫌悪になるけれど、いまさら他の雑貨には変われない。
他の雑貨仲間に聞いたところによると、安物は使われなくなると、捨てられてしまうことが多いそうだ。

タバコの煙に慣れるように、いろんな煙を吸って練習を積む灰皿くん。
台所から流れてくる焼き魚の煙。
あるときは、加湿器の煙。これが一番いい。全然むせない。

やがて、タバコを消すたびにガタガタ動く灰皿くんは、汚れたまま棚の隅に放置される。
ご主人さまは、昔に戻って空き缶を灰皿にしている。
そんなある日、ご主人さまの彼女が遊びに来た。
「あれっ?灰皿買わなかったっけ?」
「買ったけど、あれは不良品だな。こっちの方が便利だよ。このまま捨てられるしさ」
薄汚れてしまった灰皿くんの目には涙がたまっている。
「だめだよ!ゴミはちゃんと分別しなきゃ」

数日後、彼女は新しい灰皿を持って来た。
それを見た灰皿くんは、自分が捨てられてしまうことを覚悟して、ぐっと口をむすぶ。
「しっかりしなきゃ!」
自分を励ます灰皿くん。
そのとき、ご主人さまの彼女が、使われていない灰皿くんを見つけて言った。
「汚いなぁ」
それを聞いて灰皿くんは、悲しくなってきた。
彼女は、灰皿くんを手にとって台所に行き、流しできれいに洗う。
「プッハー、気持ちイーッ」
久しぶりにさっぱりした灰皿くん。
「これかわいいね。使ってないなら頂戴」
彼女は、手に取ってじっと観察する。
驚きと嬉しさでちょっと赤くなる灰皿くん。

次の日、新しいご主人さまの部屋で、ビー玉を入れられ小さな白い花を飾られた灰皿くん。
上目遣いにその花を見ながら、ニコニコ。

トップページへ