ピルケースは、持ち運び便利なコンパクトな携帯用のお薬ケース。
最近は、さまざまな形のものがある。
ネックレスのペンダントトップの形をした、おしゃれな仲間もいる。

「ぼくは、古いタイプ。タバコの箱ぐらいで上蓋がパカッって開くやつ」
ご主人さまの心臓のためのお薬が、ピルケースくんの中に入っている。
胸が苦しくなってもすぐに飲めば大丈夫。
ご主人さまを守るという、大事なお仕事をしているピルケースくん。
ご主人さまとは長い付き合いだ。
ピルケースくんの蓋には、ご主人さまの名前、電話番号や血液型が書いてある。
「ぼくたちは、いつでも一緒」
いつも磨かれている銀製のピルケースくんは、ピカピカの胸を張る。

天気の良いの日には、公園に散歩に出かける。
もちろんピルケースくんも一緒で、上着のポケットに入っている。
ピルケースくんに外は見えないけれど、ぽかぽか陽気は伝わって来る。
夕方になると公園で遊んでいる子供も少ないが、この日は、ひとりの男の子がブランコで遊んでいた。
いつものベンチでひと休みをしながら、男の子の様子を眺めるご主人さま。

その子は、勢いあまってブランコから落ちてしまった。
「大丈夫か?」
ご主人さまは慌てて走り寄り、男の子を抱き起こした。
「へーきだよ!」
元気に返事をする男の子。
「そうか・・どっこいしょ・・」
と言いながら、立ち上がろうとしたときだった。
「ウ、ウ・・ンン・・」
唸ってしゃがみこむ、ご主人さま。
ポケットに入っているピルケースくんには、外の様子が見えない。

(あれっ・・?ご主人さま、具合が悪いの?)
ピルケースくんの気持ちはあせるが、自分ではどうしようもない。
なんとかポケットからピルケースくんを取り出したご主人さま。
けれど、蓋を開ける前に意識を失ってしまった。

走り去って行く子供の足音が聞こえる。

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