最近は、いろいろなタイプの仲間が増えた。
けれど、ストーブくんは、ごく普通の電気ストーブだ。
遠赤外線でもセラミックでもない、ただの電気ストーブ。
「ハイハイ!ぼくは、暖めるだけですよ。他には、何もできませんヨ〜だ」
少しおかんむりの電気ストーブくん。

“いや、ストーブなんですから、暖めてくれるだけで十分です”

季節ものなので、一年を通してお仕事の時期が限られている。

体の小さなストーブくんは、学生のご主人様の足を暖める。
部屋を全部、暖めるより頭がさえて良いそうだ。
昼間は、ずいぶん暖かくなってきたけど、夜は、まだまだ寒い。
ご主人様は、夜遅くまで勉強している。
ストーブくんも朝と夜がお仕事の時間だ。
「ぼくには、暖めることしかできないから・・」
スイッチの入っているお仕事の時間は、ご主人様と一緒にがんばるストーブくん。

近頃、ストーブくんのお仕事が忙しくなってきた。
なにやら、大変な試験が近づいてきているらしい。
ご主人様との長年の付き合いで、それが分かる。

とうとう、その大事な日が来た。
かばんを持って緊張の面持ちのご主人様が出かける。
「がんばってね。いってらっしゃ〜い」
笑顔で送る、ストーブくん。

帰って来たご主人様の顔色を見ると、あまり良い結果じゃなかったようだ。

それからの毎日、ご主人様を励ますストーブくん。
「結果は結果だよ。大事だけど、すべてじゃないよ」
「まだ、完じゃないよ、つづくだよ」
「ストーブも暖かくなったら、片付けられてしまうけど、終わりじゃない」
「また、活躍する時期が来るんだ」
「今は、その時のために、力を蓄えて置くだけ」

しばらくして、すっかり元気を取り戻した、ご主人様。
以前の生活パターンを取り戻し、ぽかぽかとご主人様の足を暖めるストーブくん。
次第に、お仕事も減りのんびりとしている時間も多くなり出した。
「ほえ〜、すっかりいい陽気だなぁ〜」
と言うことは・・。

暖房なしでも過ごしやすい日和が続いた週末。
きれいに拭かれ、片付けられようとするストーブくん。
ご主人様に約束をする。
「ぼくも力を蓄えて置くよ。また、寒くなってきた頃に会おうね」

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