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マッチョでしょ

第一章 「胸、肩、そして上腕三頭筋」1−1

 冬の横浜、寒空の中を原チャリで走ってきた私は、震えながら行きつけのスポーツクラブの門を潜った。会社帰り、空の弁当箱が入ったきりの鞄、それに今日の着替えが一組入ったトートバッグを持ち、薄暗いフロントに歩み寄る。  ぷっくりとまん丸に太った女が私の顔を確認すると、見かけによらず素早い動きでプライベートロッカーの鍵を棚から引き取った。まだ十歩以上も先だというのに。  鍵のジャラジャラいう音がまるで耳元のように聞こえてくる。プライベートロッカーとは一年いくらで借りるロッカーのことで、大きさは十四インチテレビ程度しかない。私は靴やウェイトベルトをそこに置いている。このプライベートロッカーのお陰でやたらと嵩張る品物をわざわざ持ち歩かないで済む。  首に巻いたマフラーを掻き分け、背広の内ポケットから二つ折りの財布を取り出す。フロントの五歩手前で財布からプラスティック製のちんけな会員証を抜き出し、人差し指と中指に挟んで女に突き出す。ちょうどフロント台を挟んで丸い女の正面だ。 「こんばんは……」ニコリともしないで女が挨拶をしてくる。  私は黙ったまま目礼だけを返した。女の突き出したクリームパンのような手には今日使うロッカーの鍵とプライベートロッカーの鍵がのっている。

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