第一章 「胸、肩、そして上腕三頭筋」1−3
バーベルベンチプレスに人影はないようだ。
私はベンチに歩み寄って腰掛けると、ラックの高さを確認し始めた。上から四番目にピンを差し込み、ハンドルを締めて固定する。左右平行でなくては意味を成さないので、どちらも同じ高さか確認する。
ベンチに横たわり、天井の線と位置を確認する。少々、右に曲がっているようだ。一度立ち上がってベンチの脚に軽く蹴りを入れる。何度かこれを繰り返してベンチをまっすぐにする。ベンチが曲がっていると視神経が錯覚を起こし、挙上が曲がってしまうからだ。これで心置きなくベンチプレスが出来る。
およそ十キロあるバーの両端に二十キロずつのプレートを差し込む。合計五十キロ、この重量で、私はバーベルベンチプレスのウォーミングアップを行う。ベンチに横たわり肩甲骨を寄せる。軽く腰を浮かせて「への字」型にブリッジを作り、バーにある滑り止めを元に手の位置を決める。私のグリップは常にワイド気味だ。
息を吐きながらラックからバーを外し、十五レップ繰り返す。
このときの感じで、その日の調子が分かってしまう。重く感じれば「それなり」の結果しか出ないが、軽く感じれば新記録もありえる。バーをラックに戻し、一息ついたら五十キロでさらに十五レップ行う。徐々に体が温まっていく。
今日は調子がいいようだ。
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