第一章 「胸、肩、そして上腕三頭筋」1−6
今度はインクラインダンベルベンチプレスを行う。インクラインとは傾斜面の意味で、文字通り斜めに座ってベンチプレスを行う種目だ。インクラインベンチを斜めにセットし、次いでダンベルをふたつ用意する。ダンベルは三十二.五キロ、このジムにある最高重量だ。
正直言って、この重量では不満だが、ないものは仕方がない。それに他の人間がこのダンベルを使っているのを見たことがない。せいぜい腹筋のさいの足の錘に使っているのを見かけたくらいだ。
ダンベルをインクラインベンチの前にハの字に配置する。挙上前にこれを担いでベンチに横たわらなければならないので、少しでもその動作が楽なように、という配慮だ。
ベンチの前にしゃがみ、ダンベルを握る。タイミングを取って一気にに立ち上がり、後ろに置いたベンチに横たわる。その反動を使ってダンベルを胸の前に置き、間髪入れずにレップを開始する。さっきのバーベルベンチとは違い、ダンベルなのでバランスを取るだけでも難しい。しかも上体が斜めなので大胸筋上部や肩がより大きな刺激を受ける。
すでに高重量で疲労しているので結構きつい。ほどなく十二レップで限界を向かえ、ダンベルを床に戻した。戻すといってもほとんど落下に近い。ドスンッという鈍い音がジムに鳴り響く。
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